吉田稔麿、松浦亀太郎、玉木彦助、久坂玄瑞が入門

                                         

第8話「熱血先生、誕生」その4 からの続きです。

その時、幽囚室から声がしました。

「久坂玄瑞君、初めまして。吉田寅次郎と申します。」

久坂は、寅次郎をにらみつけながら
幽囚室に足を踏み入れます。

「あなたに聞きたいことが山ほどあるんです。
 宮部殿はお元気でしたか?」

さわやかな笑顔で寅次郎が尋ねました。

「私塾を開くそうですが、
 人を馬鹿にするだけ馬鹿にするあなたのご講義が
 どれだけ立派なもんか、ひとつ、聞かせていただこう」

久坂は、寅次郎の前に、どっかと座りました。

 


 

久坂玄瑞と寅次郎との対面

「僕は講義などするつもりはありません。
 そうですね・・・もしも塾を開くなら、
 どちらかと言うと、あなたに教えていただきたい」

「馬鹿にしくさって・・」と、にらむ久坂。

「なぜなら、僕はあなたほど優秀な若者を知りません。
 その歳で昔の書物に驚くほど通じ、実に賢明です。

 何より自分の身を犠牲にしても
 この国のために働こうという心意気を持っている。
 純でまっすぐな誠がある。

 これだけの才を持った若者は他にはおらんでしょう。

 失礼ながら・・・
 手紙のやりとりから、あなたの誠意が分かりました。

 言葉と行いが一致すれば、もう君に敵う者はいません。

 君のような若者がいればこの国の未来は明るい」

そう言うと、寅次郎も座りました。

「お家の事情、存じています」

寅次郎は、久坂に丁寧に頭を下げました。

「・・家のことを言うな」ぼそりと言う久坂。

「兄上の玄機殿は藩医でありながら、
 兵学にも通じた、たいへん立派な方でした。

 かつて、僕は藩の兵学師範を務めておりました。
 幼少より兵学者となるべく、
 お家がすべて計らってくださいました。

 しかし、あなたは違う。

 若くしてご両親を失い、兄・玄機殿を失い、
 何の後ろ盾もない中で、
 これだけの精進を重ねてこられた。

 医者でありながら、ただ国のことを思うゆえに。
 孤独にも負けず、ひたすらに励んで来られたんでしょう。

 よう、ひとりで頑張ってこられたな」

寅次郎は久坂を見つめ、しみじみと語りました。

自分が理解されていた気持ちと
素直になれない気持ちのはざまで
久坂の顔がゆがみます。

 


 

塾生誕生

WS000123文も、吉田稔麿松浦亀太郎玉木彦助
しんみりと寅次郎の話を聞いています。

久坂は、寅次郎から
目をそらしながら言います。

「言うておきますが、だまされませんよ。
 あなたが・・あなたがどげな言葉を連ねようと、
 あなたの塾になど入るつもりはありませんから。

 私は・・ただの医者です。
 門弟をお求めなら、ほかをお探しください」

そう言って立ち去ろうとする久坂に、
寅次郎は言います。

「妹に、先生になっては? と言われ、考えました。
 
 あなたとの手紙のやりとりで、思った。
 やはり、僕に教えることはできません。

 楽しかった。
 これがええ、こういうのがええ」

背を向けている久坂の前に回り込み
久坂の両腕を持ちながら、寅次郎は続けます。

「どうです? 僕は教えることはできませんが、
 よかったらともに学びませんか?友人として。

友人と学ぶのに、身分や立場など、どうでもええこと。
この寅次郎の言葉は、
吉田稔麿松浦亀太郎玉木彦助の心にも沁みました。

「もちろん講義ではないんで、謝礼など無用。
 それから、握り飯付き
寅次郎は、文の方をチラッと見て言います。

さらに笑って付け加えます。
「ご覧の通り、たった三畳半しかありませんが」

久坂の表情がやわらぎ、かすかに頷きます。

 

 

文と久坂玄瑞

黙って杉家を出ようとする久坂を、
文は追い、深く頭を下げて謝ります。

「あの・・ごめんなさい。
 色々とひどいこと。
 どうしても、寅兄とあなたを会わせとうて」

かすかに振り向く久坂に、文は続けます。

「それに・・そのお顔・・やっと会えました。
 一緒に黒船を見に行った、利かん気の人に」

asyougatsu2_omikuji「・・・あん時な。
 あん時、引いたおみくじ・・・大吉やったぞ」

久坂が文を見て、ボソリと言いました。

何だか文は嬉しくなりました。

 

 

明治維新の原動力

数日後、狭い幽囚室で、吉田稔麿松浦亀太郎玉木彦助が来て
議論が始まります。aWS000001 (4)

寅次郎が稔麿に尋ねます。

「まずは、君の考えを聞かせてください」

「僕は百姓が国の政に関わるなど、
 到底無理だと思います」

「アメリカでは何故、それができているのでしょう?」

そこへ久坂がやってきました。

「久坂君 ! 君はどう思いますか?」

寅次郎が久坂に声を掛けます。

ちょうどその時、文が握り飯を持って走って来ます。

「皆さんごはんですよ~ !」 

このとき、誰が信じただろう。この三畳半の私塾が

日本の明治維新原動力になるということを・・・

そして、もうひとり訪ねて来ます。
やって来たのは、後に久坂玄瑞と松下村塾の双璧となる高杉晋作でした。

 


 

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