黒船を一緒に見に行った男 久坂玄瑞からの手紙 塾への思い

                                         

ペリーの黒船に乗り込んでから
1年8ヶ月後の安政2年(1855年)12月
寅次郎は杉家に戻ります。

杉家では、長男・梅太郎と亀の間に
生まれた赤ちゃんが家族に加わっていました。

場面は変わり、九州遊学中の久坂玄瑞
宮部鼎蔵に本を借りに行っています。

後に日本の尊皇攘夷運動の先頭に立つ久坂玄瑞
一刻も早く夷敵を打ち払う術を学ぶために宮部の元に来ていたのでした。

そこで宮部は、長州には吉田寅次郎がいることを久坂に伝えます。

 


 

久坂玄瑞の手紙

わずか三畳半の一室で謹慎生活を送ることになった
寅次郎の元に、ある日一通の手紙が届きます。

差出人は、久坂玄瑞でした。

 久坂玄瑞と申します。
 見ず知らずの者からの手紙をお許しください。

 宮部鼎蔵様があなた様を天下の豪傑だと
 賞賛しておいででした。
 
 あなた様のご意見を賜りたく、筆を執りました。

 弘安の役の頃は、
 元の皇帝の国書があまりに無礼だと、
 日本は決然と使者を斬りました。

 今こそ、これに習い、異人を斬るべきです

「面白い……まことに面白い!」 

玄瑞からの手紙を読んだ寅次郎は
楽しげにつぶやきます。

楽しげな寅次郎の様子を見て、
文は、高須久子との会話を想い出します。

「分かち合う・・
 そういう場所があったら楽しいでしょうね。
 すぐれた学問所のようなところが・・・」

寅次郎の学問には、本だけではなく
人も必要なのではないかと思う文でした。

 


 

塾の提案

久坂の手紙が届いてからのある日のこと、
文は寅次郎に、を開くことを提案します。

「外に出られんのなら、
 ここに人を呼んで、教えるんです。
 兄上は、ええ先生になると思います」

けれども寅次郎は・・

「みだりに人の師となるべからず。
 みだりに人を師とするべからず。

 まっ、弟子もおらんのでは、先生になりようがない」

と、寅次郎はあまり乗り気ではありません。

「お弟子さんは、うちが見つけますから!」

と、真剣な眼差しで文は言います。
 

 

 

塾への勧誘

文は、知り合いに寅次郎のへの勧誘を開始します。

a-itsu入江すみの二人の兄、入江九一と野村靖に話してみるも、
罪人の塾で学ぶことはないと言われてしまい
文は、気を害します。

魚屋の松浦亀太郎(のちの松洞)は、
寅次郎から黒船の話を聞きたいようですが、
母親が来て、魚屋に学問なんぞ必要ない・・と
仕事に連れ戻されてしまいます。

吉田ふさの兄・稔麿からは
藩校明倫館に推挙してもらえそうだからと断られます。

叔父・玉木文之進の息子・彦助を誘うべく玉木家に寄るも、
文之進のスパルタ教育のまっ最中で、
とても声をかけられる雰囲気ではありません。

 

 

黒船を見に一緒に行った男

一人も塾生を集められず凹んでいる時に
寅次郎から、久坂玄瑞への返書の使いを
文は頼まれます。

久坂の住んでいる長屋に着くと
奥の方から、浪花節のような
詩を吟ずる声が聞こえてきます。

声の方へ行ってみると
戸の隙間から、背の高い男の姿が見えました。

「あっ ! Σ(゚∀゚ノ)」

042649城下に黒船が来るという噂が流れた時に、
黒船を見に、一緒に山を越え海に走り、
おみくじを引かせたあの男だったのです。

「何か?」

男は、初対面のように言います。

「あの・・覚えて・・おられない?」

「何か?」

「前に・・一緒に黒船を見に・・」

「何のことでしょう?」

あまりの男の素っ気なさに、
一緒に黒船を見に行った話をする気は失せ
文は、本題を尋ねました。

「あの・・この辺りに・・久坂玄瑞様のお宅は ?」

「久坂玄瑞は、私だが」

一瞬、驚くが、文は続けます。

「吉田寅次郎の妹・文と申します。
 兄からの返事を預かってまいりました」

「お待ち申し上げておりました。

 返事を書きますので、
 しばしお待ちいただけますか?」

 

 

寅次郎の返書

手紙を読みながら久坂の顔色は変わります。
寅次郎からの久坂への返書は驚くべき内容だったのです。

 久坂生の文を評す。
 
 君の考えは軽薄で浅はかだ。

 異人を斬るなら最初に来た時にするべきで
 今では全くもって遅すぎる。

 弘安の役など昔の死んだ例をとって、
 今の生きた事変に当てはめる考えがまず浅い。

 事を論ずるには、
 自分の置かれている立場から論ずるべきだ。

 今の君は医者だ。
 医者なら医者の立場で何かできるか考えろ。

 自分の置かれた立場も考えず、
 偉そうに天下の大計を論じ、
 口先ばかりで何もしないようなやつを、
 私は最も憎む

見る見る頭に血が登った久坂は
両の拳で机を激しくガンガン叩きます。

その様子に、文は猫のように逃げます。

久坂は、冷静を装い、文に言いました。

「近日中にお返事を差し上げますと、お伝えくだされ」

第8話「熱血先生、誕生」その2
 へと続く

 


 

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