『福堂策』と椋梨藤太 梅太郎と亀

                                         

第7話「放たれる寅」その1 からの続きです。

明倫館の書物蔵にて
寅次郎を獄から出そうという声について問い詰め、
懐から『福堂策』を取り出した椋梨藤太

「このようなものが出回り、
 あやつを獄から出すのが、
 ますます難しゅうなった。
 いたずらに衆を惑わす者を増やすわけにはゆかん」

椋梨は伊之助に釘を刺すように言い捨て、
福堂策』を伊之助の胸に押し付けて去ろうとする
椋梨に伊之助は言います。

「いたずらに惑わせてなどおりませぬ。
 この策に託された考えこそ藩にとっての宝。

 広く日本に向け、わが長州の名を知らしめす
 力たりえるものと信じるものにございます」

 
すると椋梨が言います。

「なるほど。おぬしは父親とは違う目をしておるの。
 ならば教えよう。己の望みを成し遂げるには
 様々な手立てがある。
 強き者につくもその一つ。さて次の一手をどうする?」

椋梨は笑みを浮かべながらその場を去っていきます。

意を決した伊之助は
後日、椋梨藤太の家に行き嘆願します。

「伏してお願い申し上げまする。
 異国の脅威にさらされた日本国には、
 今までに類のない人物が望まれております。
 なにとぞ吉田寅次郎の出獄を!」

 


 

藩主・毛利敬親から

a043679「急ぎ参れ」と城から呼び出され
登城する梅太郎

全然知らない場所に案内され
覚悟を決め進んでみると

美しく手入れされた庭が広がり
鮮やかな紅葉の傍に藩主・敬親がいました。

敬親は梅太郎を茶室に招き入れ

「今日は、そちに詫びねばならんことがある」

と、袱紗に包まれた小太刀を取り出します。

その昔、敬親の前で幼い寅次郎が講義をした時、
兵学講義の褒美に遣わした刀でした。

「あやつが密航を企てたときの荷に入っておったそうじゃ」

「これは、お前から寅次郎に渡せ」

敬親は、そう梅太郎に言い刀を預けました。

魂を抜き取られたような様子で
家に戻る梅太郎に文が駆け寄ります。

「殿様のご用とは何だったんですか? 寅兄様は?」

梅太郎は小太刀を懐から取り出し、言いました。

「寅次郎に渡せと。

「自宅での蟄居を申し付ける。
 寅次郎を獄から出す・・と」

文は喜びの余り梅太郎に抱きつきました。

 


 

寅次郎の出獄拒否

anoyama01「ん ? 何と申した?」
 
野山獄に寅次郎を迎えに行った梅太郎と文は
寅次郎の言葉に、キョトンとしています。

「私は、このままで構いません」
 
寅次郎の言葉に、獄囚たちは
成り行きを見守っています。

「『福堂策』とは、獄でさえ、改めれば、
 人を善に導く福堂となすことができる・・
 そう説いたものです。

 なのに説いた私かここを出てしまっては、
 肝心の論がただの絵空事になってしまう」

寅次郎がそう言うと

「だから留まる。そうおっしやるんですか?」

呆れたように文が言います。

「私は、ここで紙の上の文字ではない、
 生きた言葉と人を学びました。
 これからもそれを全うしとうございます」

そう言うと、寅次郎は深く頭を下げるのだった。

 

 

亀の女心

杉家の家族は拍子抜けしました。

「それにしても、出ろと言われて出ないとは・・。
 寅次郎にも困ったもんですね」

母・滝が呆れてます。

「仕方がない。もう一度獄へ行き、話をするしかあるまい。
 何度でも足を運び、言い聞かせる。説き伏せる
 まあ~それでも承服せんなら引きずり出す」

と梅太郎が言うと、
表情が変わった梅太郎の妻・がつぶやく。

a086431「もうイヤでございます」

「・・ん ?」と、百合之助。

「今までずっと我慢しちぉりましたが
 もう獄へは、いらっしゃらんでつかーさい。」

「なんか・・なんかあったんか ? 」

と百合之助がに聞く。

「旦那さまは、獄におる女が
 気になっておられるんです。」

「何を申すか・・・」慌てる梅太郎

「高須さまとか仰るおきれいな方 ?」

火に油を注ぐようなナイスフォローの母・滝。

「私、気付いちぉりました。」

「寅次郎様を獄に訪ねる日は、朝からそわそわ・・」

「くだらんことを申すな・・」困惑顔の梅太郎。

「きちんと髪も整えて・・身繕いもして・・」

「かぁ~め~!!」叫ぶ梅太郎

「私・・・私・・・」

それから「わぁ~ぉ」と叫んで、
梅太郎にとびかかる亀。

杉家は大騒ぎです。

第7話「放たれる寅」その3
 へと続く

 


 

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