久子と糸 文が母の真意を見抜き伝える

                                         

第6話「女囚の秘密」その2 からの続きです。

野山獄の獄吏・福川が、杉家を訪ねてきた。

高須家から、明日、久子を訪ねるという連絡があり、
文の立ち会いを希望している旨を伝えに来たのだ。

文は、高須家の前で会った少女のことを思い出し、「はい」と了承しました。

 


 

久子と娘の再会

翌日、野山獄で待っていると、
先日の少女が来ました。

少女の名前は「」と言い、
やはり久子の娘でした。

福川の案内で、(川島海荷)が
久子の房へと向かいます。

その後をついて行く文。

糸は毅然と久子の房の前に立ちました。

今日の久子は、きちんと髪を結い上げ、
武家の奥方の品格があります。

「大きくなりましたね」

と久子が言います。

 


 

高須糸の言いたいこと

「お話があって参りました。
 近頃しきりにわが家に使いをよこし、
 お爺様の遺品を求めているようですが、
 おやめいただけますか。
 二度とこのようなことはなさらないよう。
 それだけです。では」 

そう言って、冷たく帰ろうとする糸に、文が引き止めます。

「恐れながら・・お嬢様でいらっしゃいますよね。
 お身内の思い出が欲しいという
 お母上様のお気持ち、私には、よう分かります。

 非礼はおわびします。
 ですからお母上様のお願いを・・・」

文の言葉を遮るように糸が言います。

「この人はではありません。

 知っていますか ? この人の罪を。不貞です。

 この女は、夫を亡くした寂しさから歌舞音曲に溺れ、
 気に入りの三味線弾きを
 夜な夜な屋敷に引き入れたあげく密通に及んだのです。

 身分低き者との不貞をとがめられ、
 身内の者が訴えて、ここにつないでいただきました。

 皆がつらい思いをいたしました。
 我が家も取り潰されるところでした。」

文にそう言ってから

「二度と私に関わらないでください」

そう久子に強く言いました。

その時、糸は久子の房の中にあった鏡に気がつきます。

「・・鏡 !?・・・誰に媚びを売ってるんだか」 

そう言い捨てて、つかつかと去ろうとする糸を、再び文が止めます。

 

久子の気持ちを代弁する文

「待ってつかーさい。
 もう少し話をしてあげてつかーさい・・お母上様と。」

糸「この者はではありません」

文「分かりませんか ?
  私がなんでお屋敷を訪ねたか。

  久子様に頼まれて、私は無我夢中でした。
  久子様は申されました。
  何度でも、何度でも、お屋敷に伺うように・・と。」

糸「あなたもとんだ巻き添えでしたね」

文「母上様はあなたを怒らせたかったんです」

ギクッとする久子

糸「どういうことでしょう ?」

文「何度も私が訪ねれば、
  あなたがきっとここへ怒鳴り込んでくるに違いない。
  そう考えたんです。 
  あなたに会いたかったから。
  嫌われて・・怒らせて・・。
  でも、それしかあなたに会う術はなかったから・・」

久子が否定しましたが、かまわず、文は続けます。

「以前、私が拝見したとき、その鏡は曇っていました。
 それがきれいに磨かれて……。
 今日の久子様は大層きれいです。
 見てあげてつかーさい。
 もっと近くで。さぁ・・」

文が、名探偵コナンばりの推理をし
事実を解明してから
糸に久子の近くに行くように促すと、
久子が言いました。

「それには及びません。
 娘さん。おっしゃることはよく分かりました。

 二度と勝手なお願いはいたしません。
 これから先、あなたが嫁ぎ、子をなしても、
 二度とあなたの前には姿を見せません

 それでも・・・今日は会えて嬉しゅうございました
 どうぞお帰りくださいませ」

嬉しい・・・と言う言葉に
糸は、驚き、久子を見ます。

「帰りなさい! 糸!」

叫ぶ久子。

 

糸の母への想い

しばらく時間が経過してから
決心したように糸は久子に近づき
房の前に座りました。

「二度とここには参りません。
 私は、あなたを憎みます。」

そう言いながら、糸は
格子をつかんでいる久子の手に、自分の手を重ねます。

憎んだ人のことは、忘れないでしょうから

糸は久子の手を、さらに強く握りました。

次の瞬間、糸はくるりと背を向け
久子の房を後にしました。

「憎い」という言葉とは、裏腹な母への想い・・
本当は、傍にいたい・・・のでしょう。
手を握りしめた行動こそ、糸の本心なのでしょう。

不器用で強がりだから、本心が言えないのか・・
当時の武家社会の常識して言えないのか・・
いずれにしても、糸にとって久子は
かけがえのない大切な母なのでしょう。

複雑な想いで、呆然と立ちすくんでいる文に

「あなたもお帰りなさい。
 これでいいのです。・・・・ありがとう。」 

久子は優しい声で文に言った。

「覚えてますから・・・私が・・
 ずっと今日のお二人のこと・・・」

文がそう言うと、久子は頷くのだった。

「なんだかなぁ~」みたいな
たまらない気持ちで、文は家に帰ります。

当たり前に会うことができないばかりか・・
素直な気持ちを告げられない母と娘。

家に帰って、母・滝の姿を見た時、
母が、当たり前に傍にいてくれること・・
そんな母と娘の関係でいられることなどが
すべてありがたくて・・
そしてそんな母が愛おしくなり・・・
文は、こらえ切れず
母に、背中から抱きすがるのでした。

第6話「女囚の秘密」その4
 へと続く

 


 

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