野山獄での寅次郎と伊之助 久子と高須家

                                         

第6話「女囚の秘密」その1 からの続きです。

文と敏三郎は、その後も
何回も高須家を訪ねていましたが
とりつく島もなく、追い返されていました。

ある日、また門前払いされて帰ろうしている時
背後から、声を掛けられました。

「わが家に何か ?」

振り返ると、薙刀か何かの稽古帰りらしい少女が
使用人と一緒に立っています。

この子なら行けるかも・・・と、
文は久子からの書状を差し出した。

「高須久子様から。ご伝言にございます!」

久子の名前を出した途端、少女は文をにらみつけた。

「ひょっとして久子様の・・ !?」

少女は、文の問いには答えず、
門の中に入ってしまいました。

 


 

野山獄の獄囚

数日後、文が差し入れに野山獄に行くと
獄吏の福川が、文に言いました。

福川「お前が富永に差し入れた筆のせいで、皆が書に夢中じゃあ。
   新しい硯が欲しい・・紙を差し入れろ・・。
   それぞれが、家元に一斉に無心の手紙を書き始めたわ。」

文「でも、お身内はちゃんと差し入れてくださるんですね。」 

福川「厄介払いをした後ろめたさもあるんじゃろうな。」

文「・・厄介払い?」

福川「この獄におる者は、概ね家から疎まれたもんばかりじゃ。
   いわば捨てられたんじゃ・・家族に。」

文「・・捨てられた?」

福川「生涯、家には戻れん。ただここで死ぬを待たれておる。」

野山獄に投獄されている人は
いつの日か外に出られると、
思い込んでいた文は、驚くとともに
獄囚の気持ちを考えると、複雑な気持ちになりました。

 


 

依頼を取り下げる久子

そこに獄吏に伴われて久子がやって来ました。

「申し訳ありません。あれから何度もお訪ねしたんですが、
 なかなか……。でも、お約束は必ず、果たしますので……」

そう文が言うと

「あれはもうよいのです。」 

そう言って久子は立ち去ろうとします。

「いけません。そんなの。お嬢様にもきっとお願いいたしますから!」

お嬢様という言葉を聞いて、キッと態度が変わる久子。

「もうかまわないで」 

久子は低い声で言うと、房の方に向かいました。
そして、房に入る前に、庭の片隅に
文からもらったお手玉を捨てました。

 

帰ってきた伊之助

a043679 その頃、伊之助(大沢たかお)が、
江戸から萩へと戻り萩城へ登城します。

「小田村伊之助にございます。
 江戸より呼び戻しました。
 これより明倫館で教えることとなります」 

椋梨藤太(内藤剛志)が
藩主・毛利敬親(北大路欣也)に報告しました。

「江戸はどうであった」

敬親が伊之助に尋ねます。

「こたびの条約の締結によって
 我が国は辛くも外国との戦を免れました。
 しかし、我が藩も、来るべき異国との対決に備え、
 今こそ広く学ぶべき時ではないかと」

「すでに、そなたの兄、松島剛蔵殿を
 長崎に差し向け、洋学を学ばせておる」 

伊之助の言葉を遮り、恫喝するように椋梨が言います。

「それでは足りませぬ。
 この萩にも洋学所を作るべきでございます!」

伊之助も懸命に訴えます。 

「その通り。なれば今は富を蓄えるときである!」 

椋梨が、そんな余裕はない・・とばかりに水をさしますと

周布政之助(石丸幹二)が、伊之助に助け舟を出します。

「富を得ても、使い方を知らねば意味はありませぬ。
 小田村の申す通り、人を育てるも急務 !」

「このままでは日本国を守ることなど到底できませぬ!」

と伊之助。

「まずはお家であろう! 足元を見ずして何の憂国か! 
 人材の育成なら、わしも心得ておる !」

椋梨は、そう言うと、敬親に向き直り、続けました。

「そのためにも小田村には、明倫館にて、
 なお一層励ませる所存でございます」

「う・・・・・ん。そうせい」 

敬親の十八番の言葉で、話は終わりました。

敬親は、「そうせい」と任せることが多かったので
そうせい侯」と呼ばれていました。

 

迷える寅次郎 イラ立つ伊之助

伊之助は周布の計らいで、
野山獄の寅次郎と面会していた。

a163f99b049d49f4240833f4c8250c5de_s寅次郎の房の中の様子を見て、伊之助は言った。

「こねえなところで書を?」

「近頃はひとりの方が落ち着くんじゃ。
 ここなら何もんにも邪魔されず、
 ひたすら已に没頭できる」

引きこもりのようになっている寅次郎に
伊之助はイラッとする。

「何を言うておる !?
 お前の力がいるんじゃ。
 お前をここから出す。
 そのために戻ってきたんじや!」

寅次郎は、伊之助を直視できない。

寅次郎と伊之助が話をしている頃
ちょうど文が寅次郎への差し入れに
野山獄にやってきました。

富永が、中庭に通じる戸口をまたぎ
文の前に出て来て
嬉しそうに筆を見せます。

「あっ、その筆!」 

ニヤリと笑い富永は、文に挨拶をしました。

「富永有隣と申す」

「富永様。筆はお気に召しましたか ?」と文。

「良い品をかたじけない。
 兄上なら客が来ているようだぞ」
 
富永が指をさす中庭に
文は、足を踏み入れると
二階で寅次郎と話す伊之助の姿に気付きました。

興奮している様子の伊之助に
文は、声が掛けられません。

「この藩は腐っておる !

 これからの日本は、軍艦を造り、兵をそろえ、
 一刻も早う異国との交渉に備えねばならぬ。

 やのに・・藩のお歴々は安穏とするばかりで、
 ただ金のことばかり案じ、一向に動こうとせん!」

「落ち着け !
 和親条約を結んだ以上、
 列強も安易に戦を仕掛けてくることはあるまい。

 今のうちに次の策を練ればよい」 

寅次郎は伊之助をなだめる。

「次の策とは何じゃ ?
それは、俺とお前で立てるもんではないんか!」

伊之助は続けざまに言う。

「証しを見せろと言われた。文に。
 己のしでかした密航が、大義である証しを示せと。
 ・・・金子の分も生きねばならん」

迷いのある寅次郎に、伊之助が言います。

「獄の中で生きることが、金子のためか ?
 ひたすら書物に没し
 己が傷つかんよう息をひそめて生きる。
 それが償いか ?」

「分からん!
 だが、今は、ここで己を尽くさねばならん。
 伊之助・・・俺を頼るな」

そう言うと、寅次郎は、房の方へ去って行った。

第6話「女囚の秘密」その3
 へと続く

 


 

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