金子重輔の死 託されたボタオ 大義のために

                                         

第5話「志の果て」その2 の続きです。

金子重輔のための薬を抱えて
岩倉獄にたどり着いた文でしたが、
金子の遺骸を乗せた荷車を引いている
ツルと金子の弟・善兵衛に会いました。

その姿を見ているうちに、
いたたまれなくなった文は言います。

「お願いがあります。
  金子様が持っていたボタオを私に頂けませんか? 
  兄に託したく存じます」

「兄?」

「吉田寅次郎と申します。私は、妹の文と申します」 

「あんた・・あの男の」

善兵衛が愕然とします。

「 金子様の思いは、私が必ず兄・寅次郎に伝えます。
 金子様がこれからも、立派な武士として
 兄とともにずっと生きていかれるよう。
 ですから、私にボタオを。この通りでございます。」 

文は、地面に両手をつき頭を下げてお願いしました。

「あれは、捨てました。この骸は染物屋の息子でございます」

ツルは、そう言って去って行きました。

 


 

尊敬する兄・寅次郎へぶつける文の思い

 

  
文とツル&善兵衛のやりとりを
一部始終見ていた獄吏の福川が文の肩を叩き、
特別だと言って、文を野山獄の中へと案内した。

寅次郎は、すっかり樵悴している様子でしたが、
文は、金子重輔の死を寅次郎に告げます。

「金子様が亡くなりました。

 金子様は最後の最後まで、
 兄上とともに海を渡る夢を見ておられました。
 何度でも挑んでみせると。

 教えてつかーさい。
 なんで金子様は死ななくてはならなかったんですか ?

 なんで国禁を犯してまで、
 兄上は海を渡ろうとしたんですか ?」

aWS000000 (3)「あの夜俺たちは、光を見たんじゃ。
 目指す船の先に新しい日本があると。」

寅次郎は文に語りました。

「見えたんは異国の光だけですか ?

 うちには大切な方たちがいます。

 兄上が国禁を犯したあと、
 梅兄様はお役を免じられました。

 寿姉様も御城下での暮らし向きが立ち行かず、
 私たちを助けてくれるもんは誰もなく
 父上がお腹を召して詫びようとなされました。
 私たちを守るために。

 兄上の見たモンが新しい国の光だと言うんなら、
 なんでそれは私たちを照らしてはくれんかったんでしょう。」

「それは・・・。」
11歳の文に反駁できない寅次郎。

「金子様は、寅兄様が殺したんです。
 己の欲に己を慕う者を巻き込んだ。」

「違う。僕は金子と生きたんじゃ。
 夜の海を二人、大義のために大義に生きようとひたすらに。」

「ならば証しを見せてつかーさい。
 あの夜、兄上の目指した光がただの私事ではない、
 もっともっと太い大義の果ての志やったと言うんなら、志は死なない。
 
 たとえ一生牢の中にあろうとも絶望はない。
 金子様は生きて、幸せだったんだと。

 暗い牢の中で、金子様は、
 ずっとボタオを握りしめていました。
 兄上との大切な思い出を・・」

そう言い終えて、文が外に出ると、
牢獄の中から寅次郎の泣き叫ぶ声が聞こえてきました。

 


 

金子から託されたボタオ

 

寅次郎の哀しい叫び声を振り払うように
そそくさと帰る文でしたが、
途中で、ニコニコ笑いながら立っている母・滝(檀ふみ)の姿を見つけました。

大好きな兄にキツい言葉をぶつけたことが
余程つらかったのか・・
滝の胸に飛び込み、ヒックヒックと泣きじゃくる文。

「せわない」と抱きしめる滝。
この「肝っ玉かあさん」のような母・滝の存在が
吉田松陰に大きな影響を与えました。

a9e44c3524c6b9b156b37dfc4966a6452_s翌朝、杉家の井戸に
半紙に挟まれた金のボタオが
置かれているのを、文は見つけました。

外に飛び出して行くと、ツルの姿がありました。

文がツルを呼び止めると、
ツルは丁寧に一礼してくれました。
それは、あたかも命をかけた金子の思いを
託したかのようでした。

「兄上に託します」

ボタオを握りしめ、文はつぶやきました。

 

 

大義の善は小義の悪

 

Print「大義の善は小義の悪」
みたいなところがあります。

いくら大義であっても、
それが世間の人に理解されるまでには
自分の周りの大切な人を
辛い目に合わせてしまうことが
様々な歴史や伝記から伺い知ることができます。

大義に挑む者は、その情を捨て
人の見えないところで
きっと血の涙を流しているのでしょう。

一番辛かったのは、寅次郎自身であったと思います。

しかしながら、
このような辛さを糧にしたからこそ
あのような維新の志士たちを育てあげることができたのでしょう。

今の時代から考えると・・
寅次郎の存在は、間違いなく日本を救いました。

そう言った偉人を支えているのは
名も知れていない家族や仲間たちの
紛れも無いご苦労があったことを
つくづくと考えさせられます。

 


 

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